![]() | 人はなぜ「美しい」がわかるのか 橋本 治 筑摩書房 2002-12 by G-Tools |
まずはこの本のタイトルについて、「美しい」がわかるのかであって「美しさ」がわかるのかではない、というところから始まり、話はうねうねと展開します。
買った直後に読み始めたときは、そのウネウネ感になじめずに放り出してしまったのですが(厚い本ではないのに)、今回読んで、このウネウネ感は橋本治の周到な計算なのだなぁ、読み終わって混乱してないし、と気付きました。
「どういうものが美しいか」という知識があるだけの人は...という話、枕草子と方丈記の比較、夕焼けはなぜ美しいのか(「美しかった」のか)、著者が青空、嵐、小さな花を見て美しいと思った理由についての考察、「国破れて山河あり」の詩についてなど、たいへん興味深く読みました。
むろん、彼の「だから美しいと感じるのだ」という見解が「正しい」かどうかはわかりません。けれども、たとえば今日、東京都現代美術館の常設展示にあるサム・フランシスの絵---絵の具を大きなキャンバスにバシャバシャと豪快に塗ったり飛び散らせたり。「何」を描いたかも、どんな「意味」があるのかもさっぱりわかりません---を見て、私はなぜだか「おぉ、いいなー。美しいぞ」と思ってしまったのですが、そのような体験をしたとき、自分の心は不思議だなぁと思ったことがある人ならば、楽しめるのではないでしょうか。
ちょっと追記するんですが、別に絵とかに限らず、夕焼け空を見てため息をついたり、桜の花びらが散る様子に心奪われてしまったり、雪景色をぼんやり眺めてしまったり、寒空の中で星を見上げたり、そんな体験をして一度でも「なんでこんなに美しいんだろう」とか「なぜ人間はこれを美しいと感じることができるんだろう」とか思った人ならば、お勧めです。
思ったことがない人でも、今「なるほどねぇ」と思ってくださったら、お勧めです。
先日、本屋を覗いたら、筑摩のフェアでこの本が平積みになっていました。きっと継続的に売れているのですね。良い本だと思います。
最近はとんとご無沙汰になって、「上司は思いつきで〜」もざっと読んだ程度でしたが、そうか、つきっつさんが褒めるなら読んでみようかなあ。
ウネウネ感は言い得て妙。
彼の文は、軽いようで密度が濃く、というか密度が濃いので軽くしないと誰も付いてこないってことだと想像しますが、「この人は頭いいなぁ」と思わされますね。
実はもう1冊死蔵されていたりします。
しかし、そうか、お師匠様でしたか。見上げる存在があるってのは大事なことですよね(と、なぜかしみじみ)。